創作 ぽんこやん企画 猫叉vs菱形
ある日届いた謎の手紙。
次の日起きたら知らない世界。
知らない様相、知らない人たち。
でもこれからやることは分かっていた。
ころしあいである。
何も知らないはずなのに、身体に染み込んだ習慣のように、私は変わらずに息をする。
菱形はいつものように、相手を確認し、その髪を一本抜き取る。慣れた手付きで、そのまま人形に落とし込んだ。
菱形の武器は呪術による痛感共有人形であり、相手の身体を意のままにすることができる。折る、潰す、子どもがぬいぐるみを壊すように、人間を壊すことができる。
一方猫叉は両手剣、完全な物理型である。動きやすいすらりとした格好で、相手を見据えた猫叉は、眼前で武器を構える。
湧き立つ観客の声。ゴングが鳴り響く。
「降参するなら今のうちですよ?私にはあなたを思うがままにできます!」
だぼだぼのローブを着た菱形が、今にも踏み込みそうな猫叉に問い掛けた。
「…は?何言ってんの?」
「これは、貴方です」
両手に握り締められた人形は、可愛らしくも不自然なほどに相手である猫叉に似ていた。
「私がこの人形にしたことは、貴方にそのまま共有されます。だから貴方は私に勝てません」
ぎゅっと握り締めた人形。少し息苦しさを感じた猫叉だったが、精神攻撃であると判断する。
「そんなの信じるわけねえじゃん」
水溜りを諸共せず踏み込む猫叉に、菱形はやや慌てた様子を見せる。
「し、知りませんからね!!」
やや投げやり気味に持った針を、ぬいぐるみの右肩に突き刺す。
それを視認したと同時に、違和感を覚える。
違和感は実感に変わる。猫叉の右肩に激痛が走り、ぼたぼたと血が流れた。
「…は?」
思わず脚が止まり、右肩を触る。手は血に濡れ、じくじくと痛み始める。相手がしたことを思い返して、本当にぬいぐるみと感覚共有していることを理解してしまった。
「あー…なるほどね」
「ほ、ほら言ったでしょ?だから降参してください!」
ぬいぐるみに突き刺した針を抜くと、その抜かれた痛みで猫叉の軽く身が捩れる。菱形はぬいぐるみに畳み掛けることはなく、猫叉を懇願の目で見つめていた。
「じゃあそのぬいぐるみを奪えばいいだけじゃん」
相手の言葉に応えず走り出してきた猫叉に、慌てた菱形はすばしっこく逃げ惑う。しっかりと握り締められたぬいぐるみを見据え、猫叉は次の手を考えながら追いかける。
「ッ、風よ!」
追い風が巻き、菱形の身体を押す。ぐんと速くなった菱形を見て、猫叉は菱形の動きを止めることを第一にすることを決める。
降り頻る小雨に通電させ、猫叉の発した電気が菱形を包む。
「いっ!!!!」
感電した菱形は身体を折り曲げるように縮こまる。相手に攻撃が通じることが分かり、猫叉はさらに畳み掛ける。歩みは止まるも、胎児のように丸くなった菱形に、風が取り巻いて近付くことができない。
「これは悪手だったかなあ…」
眉間にシワを寄せて相手の様子を見る。
「も、もうやだぁ!!」
絶叫と共に巻く風が威力を増す。
強風を吹かせ、電気を纏った小雨を吹き飛ばした。まじか、と言葉を溢す猫叉を、怒りの目で睨み返す。
「許さない!!」
蹲っていたところを勢いよく立ち上がり、ぬいぐるみを振り上げた瞬間。
足元の水溜りで脚が滑り、バランスが崩れる。
「へあっ?!」
「あ」
ぽーんと宙に放り出されるぬいぐるみ。それは猫叉の足元に落ち、そっと拾われる。
菱形はあわあわと風を巻かせたり、針を振り上げたりとしばらく一人でわたわたしていると、静かに審判の方へ向かった。
「棄権します…」
「はあっ?!」
棄権は即時適応され、猫叉の勝利が決まった。
しょんぼりする菱形に、猫叉はぽかんと呆気にとられる。
咄嗟に声を掛けようとしたが、菱形はがっくりと肩を落としてフィールドを去っていった。
ぽつりと取り残された猫叉。観客は勝者に歓声を送る。
ふと手に残ったぬいぐるみを見て、そっとぬいぐるみの真ん中に指を這わせる。
ぞくりと感じる違和感。それは間違いなく心臓を貫いた恐怖に、思わず声が漏れる。
「っ…これはあかんやつ」
猫叉はひとり、その確実な恐怖に、苦笑いを浮かべるのであった。
#ぽんこやん企画
企画者:ぽんこやん(@nek0ponkyan)