創作 ぽんこやん企画 jack&菱形vs新羅&燈る

ぷえ、くえ、ペンギンたちが列を成して歩き回る。氷上、そして上には無数の氷柱。

ペアの片割れは氷の檻に閉じ込められ、氷上にはふたりしかいない。

心細いことこの上なかった。ぺちっと転んだペンギンに、氷柱が落ちる。落ちる音と衝撃音、そしてか細くなくペンギンの声。垂れ落ちて滴る液体。菱形はそれをみてひゅっと息を呑んだ。

 

 

 

花が咲く。

 


「いやだ…、いやだいやだ、死にたくない死にたくない、…痛いのやだ痛いのやだ…!」

 


頭を占領していく恐怖。あれほど心強い味方が、檻の中にいる。相手は身の丈ほどの大きな鎌を持つ、華奢で綺麗な女性。

 


「あら、これはどうしましょう?」

 


余裕そうな声が聞こえる。その声が遠ざかる。頭の中で繰り返される恐怖の単語が、視界すらも遮っていく。

 


しにたくない。

 


そう思った次の瞬間、私の思考はぱたりと機能しなくなった。

 

 

 

 

 

 


ぷえー!

審判であろうペンギンがけたたましく高らかに鳴く。

 

 

 

走り出す菱形。腰からアイスピックを取り出し、真っ直ぐ新羅へ向かっていく。

 


「あら、案外ヤル気なのね」

 


軽々と大鎌を持ち上げ、交戦体制になる。すると瞬間的に視界から消える菱形。足元の殺気に気付き、反射的に鎌の柄で受け止める。

 


ぎりぎりと金属が擦れる音がする。新羅は菱形を見ているが、菱形は新羅を捉えていなかった。

 


「(自我を失っているのね)」

 


ぐんっと柄を押しやると、菱形はボールのように跳ね返り、飛び退き、また次の攻撃の為に走り出す。着地の衝撃でつららが降り注ぐ。それを掻い潜り走り続ける菱形。

あれ程防戦的な彼女からは思い付かないほどの、好戦的な動きに思わず血が疼く。

 


「いいわね…!愉しいことしましょう…!」

 

 

 

檻の中から見るjackは、痛みに耐えながら闘いの様子を見ていた。彼女にこの痛みが耐えられるだろうか、そう思いながらも目は離さない。

人間の動きではない行動をする菱形に、jackは自分の痛みを分析して、彼女の身体は限界だと悟る。今は自分が痛みを肩代わりしているが、その怪我が本人に返ったときにどうなるのだろう。考えただけでもぞっとする。

ダンッと壁に叩きつけられ、眼前に氷柱が落ちる。jackは胸の鋭い痛みに思わず身を屈めた。

肋骨が折れた、肩を氷柱に貫かれた。それでもなお、動きを止めない彼女。

 


「ッ、彼女はもうダメだ!!棄権する!!」

 


戦闘の様子を見つめるペンギンに声を掛けるも、言葉が理解できないとばかりに首を傾げる。

 


(だめだ、話が通じない!)

「菱形さん!!返ってくるんだ菱形さん!!!」

 


遠くから叫ぶjackの声は、菱形には届かない。

 


「お仲間がッ、呼んでいるわよっ?」

 


激しい撃ち合いに防戦しながら新羅も話し掛けるが、菱形はぶつぶつと言いながら全く聞こえていない様子だった。

 


「貴方ッ、折れてるでしょうに!なんて戦り方してるのよ…!」

 


新羅は菱形に話しかけるが、柄越しに見る菱形の目は遠くを見ていた。

 


新羅さん!!!!!!」

 


ガキンッ!!

 

燈るの声が響く。
柄を蹴り飛ばし、大鎌の柄が上へと弾かれる。新羅は目を見開いた。そして、その瞬間飛び付いた菱形を捉えてしまった。

 


「うあ″ぁああぁあ!!!!!」

 


檻の中にいる燈るが悲鳴を上げる。ぼたぼたと血が流れ、氷を伝っていく。

新羅は痛みは感じないが、急に悪くなった視界と、菱形のアイスピックに刺さるモノをみて察する。

 


右目を手で覆い、菱形を睨み付ける。

 


菱形はアイスピックに刺さるものを見ると、ぶんっと振って氷上へと落とした。

それは少しだけ転がり、氷上にぺたりとくっつく。見開かれた瞳孔と目が合った。

 


「な、んてことを…」

 


jackの血の気が引いていく。

 

それを同じく見ていた新羅は、後ろから聞こえる呻き声と、目の前の菱形に何かが切れるのを感じた。

 


「…いいわ、あげるわ…。でも、貴方もわたしに寄越しなさい!!」

 


よろりと動く新羅の動きに反応して菱形は応戦に出る。

 


新羅の鎌は宙を舞う。

 


菱形は宙へと視線を移した。その瞬間に新羅は掌底を菱形の顎へと叩き込む。

ぐらりと揺らぐ菱形の身体に、新羅は飛び退き宙を舞う大鎌を手に取る。

 


「…楽にしてあげるわ」

 


jackはハッとする。

 


「やめろぉおおぉ!!!!」

 

 

よろめいた菱形が体勢を整え、新羅を捉えた時には、もう振り被る瞬間だった。
その咆哮虚しく、新羅は菱形を切り捨てた。ぐしゃりと軟体動物のように崩れ落ちる菱形。

jackへの痛みはなく、本人も戸惑いを隠せない。

 


「…魔術回路を絶ったわ、これで彼女は魔術を使えない…ただの女の子よ」

 


その瞬間、ペンギンがけたたましく鳴き始める。勝者が決まった瞬間だった。

 


痛みに耐えながらjackは菱形の元へと駆け寄る。そこには操り手のいないマリオネットのように、ぴくりとも動かない菱形の姿があるだけだった。

新羅は檻の中へ歩み寄り、大鎌で檻を叩き壊し、そっと燈るの肩を抱く。

 


「しんっ、ら、さん…!」

「貴方が悔やむことは何もないのよ、ありがとう、受け止めてくれて」

 


勝者とは思えない苦渋を飲む表情をした燈ると新羅は、ふたりゆっくりと氷上をあとにした。

 

 

 

 

原作:フォロワータッグマッチバトル

ぽんこやん(@nek0ponkyan)