チーム樹海:創作小説①

勝利の人々

(Nikolaos、Nicolas、Николай)

 


薄暗い装甲車、窓の意味がないほど木々しか見えない鬱蒼とした森の中を走り続け、どのくらいが経ったのだろう。

 


独裁の限りを尽くす国に反旗を翻すべく立ち上がった革命軍。主要の街は暴徒の集いと化していた。

 


その中で、僕のように若い人は戦場へと駆り出される。家族を守りたい気持ちもあったし、父さんの意思を継いで兵士の覚悟を持った今では後悔は何もない。

 


餞別にともらった、真紅のタイを握り締めると、ガコンと車体が揺れる。少し車内がざわつき始めると、後ろのドアが勢いよく開いた。

 

 

 

「ようこそ。歓迎するよ、若き力よ」

 

 

 

目の前に広がる森とは大違いの重工施設に、開いた口が塞がらなかった。

 


「長旅ご苦労様。私は新人研修を担当するユールという。以後私のことは″ユール研修隊長″と呼ぶように」

 


物腰柔らかな男性が、前に立っている。

大きくもない声なのに、風のようにスッと通り抜けていく。

 


ふと、目があった気がした。緩く細められる瞳に、少しだけ畏怖を感じた。

 


「まずは宿舎へ案内しよう。…あぁ、それと」

 


黒い毛玉には気を付けてね。

 


先程のように薄く笑みを浮かべながら話すも、ほぼ全員が理解していないように感じた。

そういう彼の言葉の意図は、僕にも分からなかった。

 


そう、この時までは。

 

 

 

 

 

 

入浴時間を終えて他の人たちから出遅れてしまい、帰り道が分からなくなってしまった。

 


「そっちはやめとけ、帰れなくなるぞ」

「エッ?」

 


声がする方を振り向くと誰もいない。

聞き間違い?空耳?

 


「相手が立っていると誰が決めつけた。そういう奴は戦場ですぐ死ぬぞ」

「ッ、はい!すみま、せ、ん…」

 


頭を下げると黒い何かが視界に映る。

恐る恐る焦点を合わせると、真っ黒な艶のある毛玉に帽子が乗っていた。

 


「素直な奴は好きだぞ〜馬鹿正直は苦手だけどな!」

「ケッ!?しゃ、え、んっ?」

「けしゃえん?」

「あーいたいた!ちょっと呼び出した張本人がいないのはどういう了見な訳!?」

 


カツカツとヒールの音を響かせて現れたのはすごい美人なお姉さん。

喋る毛玉に向かってぐちぐちと言っているが、その人の容姿があまりに整っていてつい目が奪われた。

 


「…ん?この子は?」

「原石」

「げんっ、?」

「…あー、なるほど。はじめまして新兵くん。私はニーナ。精鋭部隊指揮官兼隊長をしているわ。基本戦場にいるからそうそう会えないんだけど、君はラッキーね?」

「きょっ、今日ここに配属になりましたッ、ニコラスと言います!宜しくお願い致します!!」

「おお、76度の礼とはなかなか」

「うっさい毛玉」

 


同じくらいの目線だが、威圧感というか存在感が段違いで違う。はじめは美人な人だと思ったけど、それだけじゃないと間近で見て思った。

 


「さあ毛玉司令官行くわよ、ユールもヒルダも暇じゃないんだから」

「連れてけ」

「バカ言ってんじゃないわよ毛玉」

 


じゃあ、また会えたらいいわね

そうひらりと手を振ってまたヒールを鳴らして歩いていく。

 


というか、あの人戦場?精鋭部隊?指揮官?隊長?凄いこと言ってなかったか、?

 


「…アッ!宿舎の場所聞けばよかった!!」

 

 

 

 

 

 

「毛玉、あの子のこと原石って言ったけどまさか」

「まあ、気のせいかもしれんしそうかもしれんしって感じだな」

「まぁたそんな曖昧な…その曖昧さに私らがどんだけ振り回されてると思ってるのよ」

「人間、第六感が働く時もある」

「あんたは毛玉でしょうが」

 


カツン。そうヒールが止まる前にある重厚な扉。他の扉とは違う装飾がされており、明らかに場違いが分かる。

ニーナが手を掛けギィ、と静かに開ける。

 

 

 

「待たせたな、諸君。戦争の話をしようか」

 

 

 

原作者:ぽんこやん

(キャラクター原案、設定提供ありがとうございます)