創作小説:もしも魔法学校のキャラクターだったら

「たっ、たすけてぇ…っ」


お昼時の購買ほど嫌なものはなかったのに!
我がオアシス植物園から出たくなくて、毎朝欠かさず弁当作りをしていたのに、今朝は寝坊してしまった。朝のうちに買っておく時間もなく、仕方なく人の波に飲まれながら決死でパンを買うも、人に流され続けていた。

 

ようやく開けたところに身を投げ出されたかと思えば、植物園へと続く渡り廊下とは真反対の廊下。しかしこれ以上人混みで藻屑となりたくないので、遠回りだが渋々植物園へと戻ることにした。


植物は好き。人のように煩くないし、手間をかけるほどそれを返してくれるように立派に成長する。

 

母は魔法省に勤めていて、父は魔法学の教授。自他共に認められた立派な魔法一族なのだが、私がこんなにもちんちくりんなのは「ほうきに乗れない」からである。文字通り、ほうきに嫌われ、飛行術学の座学は満点でも実技が0点である。教科書通り、辞書通り、先生の言う通り、お父様お母様の言う通り。全部試したけれども、ほうきにだけは乗れなかった。幸いにも魔法薬学が得意な私は、身体を風船のように軽くするポーションと、跳躍のポーションを使い分けて、飛行移動することは出来るわけだが。ここは学校であり、基準と求められることが決まっていて、私はそれを満たしていない。

当然「親の面汚しだ」と罵られることもあった。しかしお父様お母様の立場上、その罵詈雑言が公になることはなかったが、その事実は消えることなく、私は我慢するしかないのだ。


「私も植物だったら飛ばなくても良かったのに…」


跳躍のポーションで隠れた大樹の幹を撫でながら、大きなため息をついた。

 

ちちち、と小さな羽音とともに声が聞こえる。音のする方へ見ると、ハチトリに似た鳥がこちらを見て飛んでいた。


「…先輩ですね?」
「なにしてんだ」


同じ熊寮の四年生である先輩は、とにかくやたらめったら動物に好かれる。動物言語学の授業で、動物に好かれすぎて授業が中断した逸話の持ち主だ。

大樹の外側の方から、バサバサと複数の音がする。察するに先輩が鳥たちを引き連れてほうきに乗って来たのだろう。


「先輩今日も賑やかですね」


じと…と見つめると、本人は全く気にしない素振りでほうきへ乗るよう手招きする。小動物たちが道を開けてくれ、鳥たちが枝を抑えてくれる。

先輩は私の様子から何かを察したらしく、そのまま地上に降りずにフクロウの管理棟へと連れてきてくれた。
連れてきた本人はもぐもぐとパンを頬張っているが、端からフクロウたちに横取りされている。


「先輩は、動物になりたかったこととかありますか」


私の言葉にきょとんとする先輩。

隙ができてパンをそのまま持っていかれてしまった。あー、と気持ちの篭ってない声を発したあと、軽く頭を掻く。


「別に、いつでも一緒だし、種族とか関係ないじゃん。種族気にするのなんて人間くらいだし」


素っ気無い言葉だが、先輩もまた人との付き合いから離れがちなのが分かる。

魔法で、種族問わずこんなにも広く関われているのに、やはり私は人間しか見えていなかったのだ。


「さすが先輩ですね」
「俺らは、生まれる種族を間違えたんだよ」
「私はそんなこと思ってませんから」


そう言って胸を張って見せるも、ほうきが乗れないのに?とおちょくられてしまう。

ほうきに乗れなくったって、やれることはあるはず!
むんっと拳に力を込めると、パンがすっぽ抜けてしまい、ぽとりと落ちる。声にならない声を出しながら、拾おうとするもフクロウたちに持っていかれてしまった。一部始終を見ていた先輩は、顔を背けてくつくつと笑いを堪えているのだから腹立たしい。

 

「先輩さっさと帰りましょう!」
「この長い階段降りる気か?」
「先輩が連れてきたんだから、先輩がきちんと帰りも連れてってください!」


そう言った私のぐりぐりと頭を、押さえつけられるように頭を撫で回す。ぎゃーっと悲鳴を上げると「フクロウたちに毒だからやめろ」と怒られた。許せない。

 

動物、人間、植物。
同じ生きる存在でも、垣根はなかなか越えられない。いつか橋渡しになるようなことがしたい、と不安な気持ちを投げ捨て決意した。

 

 

ぽんこさん(‪@nek0ponkyan)より設定いただきました!ありがとうございました!